ふたりで妊活に取り組むために 〜知っておきたい男性妊活のキホン〜
ふたりの子どもを授かりたい、というのは夫婦共通の想いだけれど、夫との温度差を感じることもしばしば。夫の気持ちを妊活に向けるにはどうすればいいの?と悩まれている方もいるのではないでしょうか。
今回は、女性を対象としたクリニックが多いなか、男性の不妊治療を専門とする「英メンズクリニック」の院長である江夏徳寿先生に、夫と一緒に妊活へ取り組むためのヒントと男性妊活のキホンについてお話を伺いました。
※ バイエル薬品(株)から江夏徳寿先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。
男性の妊活が特別なことからあたりまえのことに
メディアで無精子症をカミングアウトした芸能人が取り上げられるなど、男性不妊についての話題を日常の中でも目にする機会が多くなってきました。以前と比べ夫婦でご一緒に受診される方が増え、最近では男性一人で来られる方もいらっしゃりその変化を実感しています。自分だけが特別なのではなく、みんなが取り組んでいるんだという前向きな風潮が、本来の希望である子どもを持ちたいという気持ちを後押ししていると感じています。
早めの妊活開始がよいのは男性も同じ
不妊治療を行っている方の年齢は、30代後半~40代前半がメインですが、妊活はできれば早めに、結婚前後から始めるのが理想です。男性は女性と比べると、加齢による生殖能力の低下はゆっくりですが、歳を取るほど精子の質は落ちてきますし、奥様の年齢も高くなります。
まずは一度、夫婦で健康状態をチェックして
私たちのクリニックでは男性の検査として、1)問診(既往歴、内服薬、手術歴の確認など)、2)診察(触診・視診など)、3)採血検査、4)精液検査、5)超音波検査の5つを1日で行い状態を確認します。必要であれば、さらに高度な検査(染色体検査や精子DNA検査等)を行うこともあります。こうして得られた検査結果をもとに、どのような治療を行っていくのかを決めます。精液検査では、採取した精液中の精子の数や形、動きなどを顕微鏡を使って調べます。痛みもないので、女性に比べて大分簡単な検査です。最近は男性の気持ちを配慮し、相談しやすい体制を整えているクリニックが多くなっています。認知度もあがり、昔は「精液検査を受けるのは恥ずかしい」という意識がありましたが、今は「精液検査を受けること自体は別に恥ずかしいことでも何でもない」と男性の意識が変化してきました。結婚前のブライダルチェックという形で検査に来られる方もいらっしゃいます。受診への心理的ハードルが下がってきているように感じています。
ふたり一緒の取り組みが、妊娠への近道になることも
不妊症の原因は女性だけにあるのではなく、半数は男性に原因があるといわれています。もし夫に重大な原因があれば、奥様がホルモン剤の投与などで排卵を促す治療を続けても全く意味がなく、不必要な治療で身体的な負担をかけることにもなりかねません。
より高度な治療である体外受精を行うにしても、精液の状態をより良くした方が妊娠の成功率は高くなります。夫の受診はメリットが大きく、夫婦同時に妊活をすることは意味のあることなのです。
妊活を続けるコツは、お互いを知ること
また、夫婦同時に妊活に取り組めば、受けている治療内容への理解が高まります。妻だけが治療を行っていると、夫は「自分にはあまり関係ない」と思い、そんな夫の態度に妻は「自分はこんなに頑張っているのに、夫は全然関心を持ってくれない」とストレスがたまります。また、夫は「自分の知らないところで話が進んで、結局費用がかかるばかりで、全然妊娠しないじゃないか」と不満が出るかもしれません。そうなると、夫婦の仲自体にも影響が出てきてしまいます。
全身コンディションの改善が大切
男性が原因の場合、無精子症のように染色体や遺伝子に元から異常があるような方は少なく、精子の数や形、動きなどを調べる精液所見の結果に問題のある方が多いです。この精液所見に影響を与えるのが生活環境です。睡眠不足、ストレス、メタボリック症候群、喫煙は悪影響を与える代表的なものです。また、精子は熱に弱いため、熱がこもらないような下着をつける、サウナや温泉には長く浸からないなど意識するとよいでしょう。
また、メタボリック症候群は精子だけではなく、健康全般に影響するので、食事や運動にも気を遣うように指導しています。
生活環境を改善するには2~3カ月はかかります。まずは1カ月後に来ていただいて、生活習慣の様子をお聞きします。その際、精液検査の数値の変化を示し、指導したことが実際にどれくらいできているかを確認しています。
ふたりで妊活のスタートは生活環境を整えることから
夫婦で一緒に取り組んでもらいたいこと、それは生活のリズムを整えていくことです。生活習慣を1度見直して、睡眠時間や食生活を大切にし、お互いによいリズムを作ってみてください。女性によい習慣は男性にもよい、つまり卵子によい習慣は精子にもよいのです。2人で行う方が続きやすく、よりよい効果が期待できると思います。食事だけでビタミンやミネラルなどの必要な栄養素を摂るのはなかなか難しいことです。患者さんの採血結果を確認してみると男性の半数近くに亜鉛不足を認めます。恐らく他の栄養素も足りてない方が多いと考えられます。そういったビタミンやミネラルなどの栄養素をサプリメントで効率的に補うのは、からだを整えるという意味でメリットが大きいです。私も実際に、足りていないミネラルをサプリメントで補うように指導することがあります。その効果は、基本的に精液検査の結果をみて確認しています。
まずは妊活について夫婦でそれぞれの想いを伝え、話し合いをすることが大事です。そして、夫婦で一緒に妊活へ取り組みましょう。それが妊娠への近道です。
<コラム>
夫と妻は別々に診察、でもカルテは夫婦で共有
もともとは「英ウィメンズクリニック」として、女性も男性も診療していたのですが、ウィメンズクリニックという病院名ですと、男性が行きにくいと感じる心理的なハードルがありますし、女性が多いフロアへ男性が行くのは抵抗感もあるかなと考えました。そこで男女でフロアを分けて、男性は「英メンズクリニック」へ来ていただくようにしました。別々に診察しても、夫婦のカルテという形で情報がクリニック間でリンクしているので、相手の治療状況を見ながら方針を相談できます。
たとえば、タイミング指導のプレッシャーで勃起障害(ED)になった時に、夫がメンズクリニックで「ちょっとプレッシャーなんですよ」と打ち明けてくれれば、症状を軽減するためのお薬(対症療法)や、人工授精の提案もできます。カルテには「夫はプレッシャーを感じているので、人工授精にしてください」と書いて、ウィメンズクリニックと情報を共有しています。
Dr.江夏のチェックポイント!
男性妊活の認知度があがり男性の受診は増えている
不妊の半数は男性側に原因がある
夫婦で一緒に妊活すれば、時間も費用も節約できる
男性の検査はキホン痛くないので安心して
食事や運動習慣などの生活環境を整えよう
江夏 徳寿先生プロフィール
2005年鹿児島大学医学部卒業。2015年神戸大学大学院医学研究科卒業。16年神戸大学医学部腎泌尿器科助教となる。同年より英ウィメンズクリニック男性不妊外来を担当し、18年4月英ウィメンズクリニック男性診療部部長および研究部副部長に就任。18年11月英メンズクリニック院長に就任。医学博士(神戸大学)、日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本生殖医学会生殖医療専門医、日本泌尿器内視鏡学会腹腔鏡手術技術認定医など。医学的なことはもちろん、食事や生活習慣の改善など不妊に関する幅広い情報を患者さんにわかりやすく提供しているはなぶさブログをHPで公開している。
Last Updated : 2020/Dec/14 | CH-20221205-22